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💭夜明け前のカフェで見つけた希望|50代、独りから始まる物語 第6話

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50代、独りから始まる物語

まだ夜と朝のあいだに

街の明かりがまだ眠りきっていない時間。
空の端が、うっすらと白み始めていた。
通勤前の人影もなく、コンビニの明かりだけが静かに灯っている。

そんな早朝、ふと立ち寄ったのは、
いつも前を通るだけだった小さなカフェ。
「OPEN 5:00」の札が、なぜかその朝だけは優しく見えた。

店内には、焙煎の香ばしい匂いが満ちていた。
カウンターの向こうでマスターが新聞をたたむ音。
誰もいない空間に流れるジャズの低い音が、
まるで時間の呼吸のように心を落ち着かせる。


コーヒーの湯気に、心がほどけていく

カウンター席に腰を下ろし、ホットコーヒーを頼む。
立ちのぼる湯気の向こうに、窓の外の光が少しずつ強くなっていく。
夜と朝の境界が、目の前で混ざり合うようだった。

「毎朝、早いんですね」
マスターが笑いながら話しかけてくれた。
「いえ、今日はたまたまです」
そう返したけれど、本当は眠れなかった。

このところ、何かを失ったような気がしていた。
仕事にも張りがなく、誰かに相談できるわけでもなく。
ただ毎日を“こなしているだけ”の感覚が続いていた。

でも、その小さな店で、
ゆっくりと湯気を見つめているうちに、
心の奥で何かが少しずつ動き出すのを感じた。


夜明け前に見えた「もう一度」

窓の外に、細く光る朝焼けがのびていた。
それを見た瞬間、胸の奥で小さな声が響いた。
——「もう一度、やり直してもいいんじゃないか?」

誰かの言葉じゃない。
自分の中から出てきた、久しぶりの“肯定の声”だった。

若いころは、何かを始める理由なんていくらでもあった。
でも50を過ぎた今、
何かを「もう一度始めたい」と思える瞬間が、
こんなにも尊く感じるとは思わなかった。

コーヒーの苦みが、
なぜかあの頃の“未来への期待”に似ていた。
ほんの一口で、心が少しだけ明るくなる。


小さな希望は、静かな場所にある

外に出ると、街がゆっくり目を覚ましていた。
ビルのガラスが朝日に照らされ、
自転車を押す人、犬を連れて歩く人が少しずつ増えていく。

ふと、胸の奥が軽くなっているのに気づく。
何も変わっていないのに、
「大丈夫かもしれない」と思えるだけで景色が違って見える。

希望は大きな出来事の中にあるんじゃない。
こうして誰もいないカフェの静けさの中で、
心がほんの少しだけ動いたときに生まれるんだ。

今日も同じ一日が始まる。
けれど、その始まり方が違えば、
きっと、これからの景色も少しずつ変わっていく。

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🔸 小さな出口(今日の一歩)

  • 早朝、少し早く家を出て静かな場所でコーヒーを飲む
  • 何も考えずに空の色の変化を眺める
  • 「もう一度やり直してもいい」と心の中でつぶやく
  • それが、今日の“再出発の合図”

最後まで読んでいただきありがとうございました。


🪷 心の四季 ― シリーズ全体の地図

第1〜5話=心の冬(停滞・苦悩)/ 第6〜10話=心の春(癒し・受容・再出発)

この章の位置:第6話=「再出発(光を見る)

心理の連なり:
停滞 → 苦悩 → 癒し → 受容 → 再出発 → 解放 → 再起 → 受容 → 安心

各話は独立しつつも、全体では「心の冬」から「心の春」へ滑らかに移行する構造です。
自分が今どの季節に近いかを感じながら読むと、物語がより自分ごととして響きます。

著者プロフィール
この記事を書いた人
50ossan

50代・独身・清掃業のおっさんです。
毎朝「仕事に行きたくない」と思いながら、それでもなんとか生きています。
趣味はサイクリング。孤独と生きづらさを抱えつつも、小さな楽しみで心を保ちながら、日々のリアルをブログに綴っています。

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