50代独身男性、仕事に行きたくない朝｜清掃業と孤独の現実

はじめに：クロスバイクにまたがる前のため息

朝4時半。まだ街は眠っている。都市郊外のアパートの一室で、目覚ましが鳴る。
止めるのは簡単だ。けれど、布団から体を起こすのがどうしても難しい。

「今日も、清掃の仕事に行かなきゃ」
そう思った瞬間、胸の奥にズシンと重みが落ちてくる。

誰もいない部屋。返事をしてくれる人もいない。
玄関に置いたクロスバイクを横目に見ながら、ため息をひとつ。
まだ乗ってもいないのに、一日の重さを背負わされた気分になる。

清掃業は、想像以上に体力を使う仕事だ。
夏は灼熱の中で汗が滝のように流れ、冬は冷水で手がかじかむ。
50代になってからは疲れが翌日に残り、朝から体が重い。

加えて、人間関係もなかなかうまくいかない。
同年代は少なく、周囲は若い人ばかり。
会話を合わせるのにも気を遣うし、理不尽な指示に心が折れることもある。

「今日も余計なことを言わずにやり過ごさなきゃ」
そう思うだけで、出勤前に心がすり減ってしまう。

時には、布団の中で涙が込み上げることさえある。
「もう行きたくない」
これは怠け心なんかじゃない。心の悲鳴だ。

「だったら辞めればいい」と言う人もいるだろう。
けれど、50代で独身、一人暮らしの僕には簡単な話じゃない。

仕事を辞めれば生活が立ち行かなくなる。
「辞めたい」と「辞められない」の間で押し潰されそうになるのだ。

仕事から帰宅すると、洗濯物やシンクに残った食器が待っている。
誰もやってくれる人はいないから、全部自分で片付けなければならない。
「ハァ……」とため息が漏れるのは、体の疲れ以上に心の重さのせいかもしれない。

ある日、目覚めた瞬間に涙が流れていた。
「また今日も同じ仕事か」と思っただけで、心が限界を訴えてきたのだ。

布団から出ることすらできず、何度も「休もうか」と頭に浮かんだ。
けれど、休むことへの罪悪感もあり、心は揺れ続けた。

最終的に選んだのは「小さな寄り道」だった。
いつものルートを少し外れ、クロスバイクで遠回り。
途中のカフェで温かいコーヒーを飲み、深呼吸をしてから職場へ向かった。

それだけで、心の重さが少しだけ軽くなった。
「自分を守るために工夫してもいいんだ」と思えた瞬間だった。

完璧な解決策なんてない。
けれど、壊れてしまう前に「小さな工夫」を積み重ねることはできる。

朝のご褒美を作る
　お気に入りのコーヒー豆を淹れる。
　「この香りがあるから起きよう」と思えるだけで布団から出やすくなる。
クロスバイク通勤を楽しむ
　風を切る感覚は、誰にも邪魔されない自分だけの時間。
　ほんの15分でも「自由」を感じられる。
休む勇気を持つ
　どうしても無理な日は「今日は休む」と自分に許可を出す。
　50代まで頑張ってきた自分に、それくらいの優しさは必要だ。
小さな出口を用意する
　コンビニで好きなパンを買う。
　通勤路を変えて気分転換する。
　会社の前でカフェに寄る。
　それだけでも「今日をなんとかやり過ごせる」力になる。